才能心理学の理論背景にある3つの心理学

才能心理学の理論はいくつかの心理学の理論を使って説明することができます。

主に成長欲求や自己実現欲求、人間性を研究したアドラーの個人心理学、マズローの人間性心理学、チクセントミハイのフロー理論です。

あまり知られていませんが、彼らの思想、知見、理論を活用すれば、才能開花メカニズムの大部分を説明することができます。

その観点からいえば、才能心理学はこの3つの理論では説明されていない才能開花メカニズムを解明し、才能開花という目的に沿って3つの理論を統合したモデルということもできます。

アドラーの個人心理学、マズローの人間性心理学、チクセントミハイのフロー理論を学んだことがあれば、才能開花メカニズムを理解すやすいと思いますので、ぜひ参考にしてください。

アルフレッド・アドラーの個人心理学

AlfredAdler
(Isidoricaaa7 – 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=45975227による)

ベストセラー本、『嫌われる勇気』で一躍有名になったアドラー心理学。その中に劣等感や劣等感コンプレックスという言葉が出てきます。

アドラーは身体的障害を抱えたクライアントのカウンセリングを行っていました。彼のクライアントの中には、パラリンピックに出場する選手のように障害をかかえながらも高度な運動能力を発揮する人がいました。

彼らは身体的障害を強力な動機付け(モチベーション)にし、トレーニングを積むことで秀でた才能を発揮しました。

彼らはアドラーのいうライフタスク(人生、生活の中で常に直面し、対処を求められ続けている課題のこと)に向き合った人です。

一方で、アドラーは自分の障害に打ちのめされ、ライフタスクに向き合えず、打開する努力がほとんどできない人がいることにも気づきました。

このことから、アドラーは障害の有無に関わらず、自尊心と劣等感が人生に大きな影響を与えていると考えました。

身体的障害に限らず、他者と比較した時「自分には◯◯がない」という劣等感をバネに成長し、才能を開花させ成功した人はたくさんいます。

アドラーのこの知見は、才能心理学でいえば才能開花の1つのタイプ「ない人」に当たります。

しかし、世の中には大きなコンプレックスや障害がなくても才能開花する人もいます。彼らがなぜ才能を見つけ、開花できたのかはアドラーの知見の中には見当たりません。

劣等感がない人がどのようにして才能開花に至るのか。この答えを見つけるには独自の研究が必要です。

アブラハム・マズローの人間性心理学

Abraham_Maslow

(By Source, Fair use, https://en.wikipedia.org/w/index.php?curid=34062949)

アブラハム・マズローは自己実現の心理学の提唱者として有名です。

マズローは人間には2つの大きな欲求があると言いました。1つは欠乏欲求、もう1つが成長欲求です。

欠乏欲求

  • 生理的欲求:食事、水、睡眠など
  • 安心・安全の欲求:身の安全の確保や危険のない状態
  • 愛と帰属意識の欲求:他者と親密になり、承認されたい
  • 自尊の欲求:何かを実現し、他者に承認されたい

成長欲求

  • 認知的欲求:知識や理解への欲求
  • 審美的欲求:秩序と美への欲求
  • 自己実現欲求:個人的可能性を充足したい
  • 自己超克欲求:他者を助け、自分の外部にある何かとつながりたい

マズローの欲求の階層

*マズローの欲求5段階説とよく言われる

マズロー欲求5段階説

心理学大図鑑(三省堂)より

才能開花した人は自己実現欲求を追求した人。アーティストの中には神への捧げ物として作品作りに取り組んでいる人もいます。歴史的建造物を作った人はそういうタイプなので、自己超克欲求も才能開花の原動力になります。

マズローは、次のように言いました。

「人生の中で自分に一番適したことを行っていなければ、他のすべての欲求が満たされたとしても、人間はいつまでたっても落ち着けず、満たされないだろう」

「人間は自分がなれると思ったものにならなばならない」

まさに才能開花した人は「これ(仕事や活動)をしていなければ自分ではない」とよく言います。

しかし、マズローはどうすれば自己実現欲求を見つけることができるのか。平たくいえば「やりたいことを見つけられるのか」を明確に提示しませんでした。

またマズローは成長欲求を通じて大きな知的満足を達成するためには、欠乏欲求が満たされなければならないと言いました。

しかし画家ゴッホのように欠乏欲求が満たされなくても才能開花する人はいます。評価されたのは死後ですが、ゴッホの例を考えた時、マズローの欲求階層通り成長するとも言い切れません。

再現性のある才能開花理論を体系化するには、「自己実現欲求が発生するメカニズム」と「再現性のある自己実現欲求の見つけ方」を見つける必要があります。

ミハイ・チクセントミハイのフロー理論

Mihaly-Csikszentmihalyi

(Ehirsh – 投稿者自身による作品, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=17654671による)

チクセントミハイはフローという概念の提唱者として有名です。 フローという概念は同僚でポジティブ心理学創始者の一人とされるピーター・セグリマンにも影響を与えました。

フローとは没頭状態のこと。

芸術家や音楽家、外科医やビジネスリーダー、スポーツ選手やゲーマー、料理人に至るまで自分の職業に満足している人たち全員が「活動を楽しんでいたり、没頭している時に体験している感覚」のことです。

オリンピックで金メダルに輝くような選手たちも試合中、フロー状態に頻繁に入ります。

フロー状態には次の3つの効果があります。

  1. 高いパフォーマンスの発揮
  2. 圧倒的な楽しさ
  3. 自己の成長

フロー状態に入った時の具体的な感覚としては、

  • 時間の感覚がない(あっという間に過ぎる)
  • 思考がクリア
  • 何をすればいいのかはっきりわかる
  • 予想通りの結果になる
  • 行動した瞬間、完璧な手応えを感じる
  • 自己の感覚がない
  • 活動と一体化している
  • 視野が高くなり、広がる
  • 落ち着いている
  • 気遣いや心労から解放されている など

非日常的な感覚を体験するのがフロー状態の特徴です。

チクセントミハイはフローに入るコツとして次の3つを挙げています。

  1. 活動が本人の技能にマッチしていること
  2. 課題は実行可能だが、本人に技量を拡張するもので、全面的な集中を要求すること
  3. 難しすぎても簡単すぎてもいけない

つまり少しハードルは高いが、技能を活かせば「できる」と思えることが大切だと指摘しています。

そしてチクセントミハイは「自己目的的活動」という言葉を使い、次のように言っています。

「自己目的的活動とは、それを体験すること自体が目的であるがゆえに、それ自体として行う活動」

「自分のしていることが本質的に重要であり価値があると感じられる」

「だから自己目的的活動をしている人は、物の所有、レジャー、癒し、権力や名声といったものをほとんど必要としない」

たとえば、サッカーの三浦知良選手は53歳になった今も現役でプレーを続けています。(2020/9/14現在) 「サッカーをやること=人生を生きること」なのでしょう。

職人の中には定年退職しても、物作りを続けている人はたくさんいます。元サラリーマンの人でも、現役自体の経験を活かし相談業務を行ったり、業務委託で働き続けている人もいます。

ひらたくいえば自己目的的活動とは、お金をもらえなくてもやりたいと思えるほど好きな活動のこと。ただしレジャーとは違い、没頭できるレベルの好きなことです。

つまりフローに入るには技能にあった活動だけではなく、自己目的的活動が必要です。

「能力を評価されるのは嬉しいし、難易度の高い仕事は燃える」「けれど、それは一瞬」「モチベーションが長続きしないことは自分でわかっている」と訴えるビジネスパーソンはたくさんいます。

彼らの問題の本質は技能にあった仕事をしているが、自己目的的活動にあった仕事はしていないということです。

フロー理論は才能開花メカニズムを解明する上で2つのヒントを与えてくれます。

  1. 劣等感をバネにした成長欲求がなくても、フロー体験に入ることができれば、時間を忘れるほど楽しく活動に没頭し才能を開花させることができる
  2. フロー状態に入れる自己目的的活動を見つけることができれば、その先に才能開花する可能性が高い

つまり才能心理学でいえば才能開花の1つのタイプ「ある人」に当たります。

ではどうすれば、自己目的的活動を見つけることができるのか。この点に関しては、チクセントミハイは明確な答えを示していません。

フロー理論を踏まえれば、再現性のある才能開花理論を体系化するには「自己目的的活動の見つけ方」を見つければいいということがわかります。

3つの心理学を統合することで見える才能開花モデル

アドラーの個人心理学、マズローの人間性心理学、チクセントミハイのフロー理論を統合すると次のような才能開花モデルが見えてきます。

アドラー・マズローの欲求階層・フローの統合モデル

この三角形を山だと考えると、山頂に至るルートは複数あります。

ざっくり2つのルートに分ければ1つが右側ルート。チクセントミハイのフロー理論から辿るルートです。

右側ルートをたどる人の多くは生まれ育った家庭が経済的にも家族関係的にも安定しているため、欠乏欲求が生まれにくく成長欲求が生まれやすい。

心底楽める、没頭する自己目的的活動をしている間に才能開花し、自己実現に至るタイプ。平たくいえば好きなことで才能開花するタイプです。

右側の欠乏欲求部分の線が点線になっているのは、客観的に見れば欠乏状態にあるはずなのに、本人は全く気にしておらずコンプレックスも劣等感も持っていない健全なマインド状態にいる人もいるからです。

彼らの中には物心共に欠けているものがあったとしても、他者からの視線や評価を気にせず、自由に心から楽しみ、没頭できる活動を見つけ才能開花していく人もいます。

左側ルートはアドラーの個人心理学から辿るルートです。欠乏欲求が劣等感になっているが、それをバネに成長している間に才能開花するのが左側ルートで自己実現に至るタイプです。平たくいえばコンプレックスをバネにハングリー精神でのし上がり才能開花するタイプです。

マズローがいうように欠乏感が比較的少ない人の方が認知的欲求をスタートラインにできるので、自己実現に向けたスタート位置は高い。そういう意味では有利です。

しかし現場で才能開発コンサルティングをしている立場からいえば、欠乏感を経験をした人は、その経験をしなければ得られなかった独自の視点や感性を持っています。

ココ・シャネル

たとえば、シャネルを作ったココ・シャネル。彼女は11歳の時に母親を病気で失いました。放浪癖のあった父親は子供たちを修道院に預け、迎えに来ることはありませんでした。

シャネルは愛情や居場所、承認を十分に与えられず大人になりました。その欠乏感からシャネルはもう二度と誰にも振り回されないように「自立した女性になろう」と決意。経済的に自立できるよう住み込みのデザイナーとして働き始め、ファッションビジネスで成功しました。

彼女は男性から可愛いと思われるファッションではなく、機能的でエレガントな自立した大人の女性のファッションをデザインしました。誰かに依存するのはこりごりだったからです。

一歩下がって男性に従うのが女性の生き方だった当時。シャネルの革命的なデザインは女性の心を掴みました。

そして今でもシャネルブランドは働く女性のためのファッション、自立した女性のためのファッションとしてブランドを確立しています。

その経験が幸福だったとは言いませんが、それゆえに彼らは独自の視点や感性を持ち、独自の才能を開花させていきます。

歴史的な観点からいえば、彼らが自分の才能で世界的に貢献し活躍するのは、その時代に彼らと同じ欠乏感をもった人が世の中に大勢いるからに他なりません。

彼らは欠乏感をもっていたからこそ、ユニークな作品を作り、誰にも真似できないプレーを披露し、独自の商品やサービスを作ることができた。それが同じような欠乏感を持っている多数の人々の共感を得るのはむしろ自然なことです。

これがアドラーの個人心理学、マズローの人間性心理学、チクセントミハイのフロー理論を活用した才能開花メカニズムの説明です。

この3つの心理学を統合すると、才能開花モデルを体系化するために欠けているピースは次の3つになります。

  1. 自己実現欲求が発生する心理メカニズム
  2. 自己実現欲求の見つけ方
  3. 自己目的的活動の見つけ方

この3つを見つけることができればすべてのピースがそろいます。

才能開花した人の共通点 ディープインパクト

ディープインパクト

私は才能心理学を体系化するために才能開花した人物たちを生い立ちから遡り分析しました。

すると彼らがどのようにして自己実現欲求や自己目的的活動(ビジネスや職業、スポーツなど)に出会ったのか共通点を見つけることができました。

それがディープインパクトです。

ディープインパクトとは才能開花のきっかけとなった衝撃的な出来事のこと。

シャネルの場合でいえば、母親を病気で失い、父親に捨てられ身寄りのない境遇になったという出来事になります。元大リーガーのイチロー選手なら、兄弟に連れ行ってもらって初めて野球を見た時、衝撃が走ったと語っています。

ポジティブな出来事か、ネガティブな出来事かは違いますが、才能開花した人はディープインパクトをきっかけに才能開花の道へ踏み出しています。

スポーツ選手やアーティストは憧れの選手や聞いた曲がディープイパクトになり、そのまま同じスポーツや職業を目指すことが多いですが、起業家やビジネスパーソンは違う場合もあります。

シャネルでいえば欲しかったのは自立や自由。当時、彼女の周りにあった自立・自由を獲得できる手段はファッションデザイナーという仕事でした。

その前には当時、女性が稼げる仕事だといわれていた歌手にも挑戦しています。もし、今彼女が生きていたら全く違う仕事を選んでいた可能性もあります。

いずれにせよ、才能開花のきっかけにはディープインパクトがあります。

結論はこうです。

  • 自己実現欲求が芽生える時は、ディープイパクトを経験した時
  • 自己実現欲求を見つけるには、ディープイパクトを見つければいい
  • 自己目的的活動については、ディープイパクトがそのまま自己目的的活動になる場合と、自己実現欲求を満たしてくれそうな活動を他に見つける場合がある

ディープインパクトの発見によって才能開花メカニズムを解明することができ、才能心理学を体系化。才能プロファイリングを開発することができました。

その理論背景には偉大な心理学者たちの存在があります。

才能心理学の詳しい理論はこちらのページで解説していますので、興味のある方はご覧ください。